カスタマージャーニーマップの作り方:顧客の行動と心理を可視化する

優れたWebマーケティング施策とは何でしょうか?それは、顧客の気持ちに寄り添い、最適なタイミングで最適な情報を提供することに他なりません。しかし、顧客の複雑な心の動きや行動を、勘や経験だけに頼って捉えるのは至難の業です。

そこで強力な武器となるのが「カスタマージャーニーマップ」です。

カスタマージャーニーマップとは、顧客が商品を認知し、興味を持ち、購入し、さらにはファンになるまでの一連の「旅(ジャーニー)」を可視化した地図のことです。この地図を手に入れることで、私たちは顧客の視点に立ち、彼らが各段階で何を考え、何を感じ、どう行動するのかを深く理解できるようになります。

前回の記事では、マーケティングの出発点となる「ペルソナ設定」の重要性を解説しました。今回のカスタマージャーニーマップは、そのペルソナが実際にどのような旅路を辿るのかを描き出す、いわば続編です。

この記事では、カスタマージャーニーマップがなぜ現代のWebマーケティングに不可欠なのか、そして成果に直結する具体的な作り方を6つのステップで徹底解説します。さらに、このスキルがあなたのキャリアアップリスキリングにどう貢献するのかまで、5000文字以上の大ボリュームでお届けします。

この記事を読み終えれば、あなたは顧客理解の解像度を劇的に高め、効果的なマーケティング戦略を立案するための羅針盤を手に入れているはずです。

なぜカスタマージャーニーマップがWebマーケティングに不可欠なのか?

カスタマージャーニーマップの作成には、時間も労力もかかります。しかし、それに見合うだけの、いや、それ以上の価値がこの一枚の地図には秘められています。ここでは、マップを作成することで得られる3つの絶大なメリットを解説します。

顧客視点を組織の「共通言語」にする

マーケティング部門、営業部門、開発部門、カスタマーサポート部門。多くの組織では、部門ごとに顧客に対する見方や課題意識が異なりがちです。

  • マーケティング担当者:「もっとWebサイトへのアクセス数を増やしたい」
  • 営業担当者:「確度の高いリードが欲しい」
  • 開発担当者:「ユーザーが本当に使う機能を知りたい」

これらの意見はどれも正しいですが、向いている方向がバラバラでは、一貫した顧客体験は提供できません。

カスタマージャーニーマップは、この問題を解決します。ペルソナという一人の顧客が辿る旅路を一枚の地図にまとめることで、組織内の全部署が「顧客」という同じ方向を向くための「共通言語」として機能します。会議の場でこのマップを広げれば、「ペルソナの〇〇さんは、この段階でこんなことで困っている。だから、私たちの部署ではこういうサポートができるはずだ」といった、建設的で顧客中心の議論が生まれるのです。

分断された施策を「線」でつなぎ、相乗効果を生む

現代のWebマーケティングは、SEO、コンテンツマーケティング、SNS運用、Web広告、メールマガジンなど、施策が多岐にわたり、複雑化しています。その結果、各施策が「点」としてバラバラに実行され、顧客体験が分断されてしまうケースが後を絶ちません。

  • SNS広告で興味を持ったのに、遷移先のWebサイトの情報が分かりにくい。
  • 有益なブログ記事を読んだのに、その後のフォローアップがない。
  • 商品購入後に送られてくるメールが、自分の興味と全く関係ない。

これでは、せっかくの努力が水の泡です。カスタマージャーニーマップは、これらの「点」である施策を、顧客の感情や行動の流れに沿った一本の「線」として繋ぎ合わせる役割を果たします。顧客がどの段階で、どのタッチポイント(接点)を通り、次にどこへ向かうのかを俯瞰することで、各施策が連携した、なめらかで心地よい顧客体験を設計できるのです。

LTV(顧客生涯価値)を最大化する鍵

ビジネスの持続的な成長には、新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客に長く愛してもらい、繰り返し購入してもらうこと、つまりLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を高めることが不可欠です。

多くのマーケティング活動は、どうしても「購入」をゴールにしがちです。しかし、顧客の旅は購入で終わりではありません。むしろ、そこからが本当の関係性の始まりです。

カスタマージャーニーマップでは、「購入後」のステージ(利用、継続、推奨など)にも光を当てます。

  • 購入後、顧客はどのようなサポートを求めているか?
  • 製品やサービスをさらに活用してもらうための情報提供はできているか?
  • 顧客が「この商品を選んでよかった」と満足し、友人や知人に推奨してくれる(アンバサダーになる)ためには、何が必要か?

これらの問いに答えることで、顧客との長期的な関係を築き、LTVを最大化する戦略を描くことができます。これは、安定した事業基盤を築く上で極めて重要なスキルアップと言えるでしょう。

実践!カスタマージャーニーマップ作成の6ステップ

それでは、実際にカスタマージャーニーマップを作成する具体的な手順を6つのステップに分けて解説します。いきなり完璧なものを作ろうとせず、まずはチームで叩き台を作ってみる、という意識で取り組んでみてください。

Step 1: ゴールとペルソナの明確化

何よりもまず、「誰の」「何のための」ジャーニーマップなのかを定義します。

  • ゴール設定: このマップを使って何を達成したいのかを明確にします。例えば、「新規顧客のコンバージョン率を10%向上させる」「既存顧客の解約率を5%低下させる」など、具体的であるほど良いでしょう。
  • ペルソナ設定: ジャーニーの主人公となるペルソナを設定します。前回の記事で解説した手法で作成した、詳細なペルソナを用意してください。ペルソナが存在しないジャーニーマップは、羅針盤のない航海と同じです。この記事では、リスキリングのためにWebデザインを学び始めた32歳の事務職「佐藤さん」をペルソナとします。

Step 2: ジャーニーの「ステージ」を設定する

ペルソナがゴールに至るまでの道のりを、大きな段階(ステージ)に区切ります。一般的には、以下のような購買行動モデルを参考にすると考えやすいでしょう。

  • 認知: 課題の存在や、商品・サービスの存在を初めて知る段階。
  • 興味・関心: もう少し詳しく知りたい、自分に関係あるかも、と感じる段階。
  • 情報収集・比較検討: 複数の選択肢を調べ、自分に最適なものを探す段階。
  • 購入・申込: 意思決定をし、具体的なアクションを起こす段階。
  • 利用・継続: 実際に利用を開始し、その価値を体験する段階。
  • 推奨・共有: 満足度が高まり、友人やSNSなどで他者に勧める段階。

これらはあくまで一例です。自社のビジネスモデルに合わせて、ステージをカスタマイズしてください。

Step 3: 各ステージの「行動・タッチポイント」を洗い出す

設定した各ステージで、ペルソナが具体的に「何をしているか」を洗い出します。

  • 行動: 「SNSで検索する」「比較サイトを見る」「資料をダウンロードする」など。
  • タッチポイント(接点): 行動が起こる場所や媒体。「Google検索」「Instagram」「企業ブログ」「店舗」「営業担当者」など。

ペルソナの「佐藤さん」の例で考えてみましょう。

  • 認知ステージ:
    • 行動: 「将来のキャリアアップについて漠然と不安を感じ、ネットで『30代 スキルアップ』と検索する」
    • タッチポイント: Google検索、転職情報サイト
  • 比較検討ステージ:
    • 行動: 「A社とB社、C社のWebマーケティングスクールの無料カウンセリングを予約し、比較する」
    • タッチポイント: 各社のWebサイト、比較記事、口コミサイト

Step 4: 「思考・感情」を掘り下げる

ここがジャーニーマップの肝となる部分です。各ステージの行動の裏で、ペルソナが「何を考え、何を感じているか」を想像し、記述していきます。顧客インタビューやアンケートで得られた「生の声」を元に、リアルな感情の起伏を捉えましょう。

  • 思考: 「このスクールは料金が高いな…」「本当に未経験でも大丈夫だろうか?」
  • 感情: ポジティブな感情(期待、喜び、安心)とネガティブな感情(不安、不満、面倒)の両方を捉えます。感情の変化を折れ線グラフなどで可視化すると、課題点がより明確になります。

Step 5: 課題と施策アイデアをマッピングする

ペルソナの思考・感情を分析し、特に感情がネガティブに振れている部分や、行動が止まってしまいそうな部分を「課題」として抽出します。そして、その課題を解決するための「施策アイデア」を考えていきます。

  • 課題: 「比較検討ステージで、どのスクールも同じに見えてしまい、決め手がないと感じている」
  • 施策アイデア: 「卒業生のキャリアアップ事例や、具体的なポートフォリオをコンテンツとして充実させる」「無料カウンセリングで、個別のキャリアプランを親身に相談できる体制をアピールする」

Step 6: マップを可視化し、共有・活用する

最後に、これまでのステップで洗い出した要素(ステージ、行動、タッチポイント、思考、感情、課題、施策)を一枚のシートにまとめ、可視化します。

【カスタマージャーニーマップの構成要素】

認知興味・関心比較検討購入
行動検索するブログを読む資料請求申込
タッチポイントGoogleオウンドメディアWebサイト申込フォーム
思考何から始めようこの情報役立つな料金が高いな本当に大丈夫か
感情(不安) →(期待) ↑(迷い) ↓(決意) ↑
課題決め手がない
施策卒業生事例の提示

ツールは、Excelやスプレッドシートでも十分作成可能ですが、MiroやLucidchartのようなオンラインホワイトボードツールを使うと、チームでの共同作業がしやすくなります。完成したマップは、いつでも誰もが見られる場所に掲示し、常に議論の中心に据えることが重要です。

スキルとしてのカスタマージャーニー:Webマーケターのキャリアアップ戦略

カスタマージャーニーマップを作成するスキルは、単なるマーケティング業務の一環ではありません。それは、これからの時代を生き抜くビジネスパーソンにとって、極めて価値の高いポータブルスキルであり、あなたのキャリアアップ戦略の核となり得ます。

俯瞰的視点を養い、施策の実行者から戦略家へ

Webマーケターのキャリアは、ともすると個別の施策(広告運用、SEO対策など)の専門性を高める方向に進みがちです。もちろんそれも重要ですが、より高いレベルのキャリアアップを目指すには、それらの施策を統合し、事業全体の成長に貢献する「戦略的視点」が不可欠です。

カスタマージャーニーマップの作成プロセスは、まさにこの戦略的視点、全体を俯瞰する力を養う最高のトレーニングです。顧客の旅全体を見渡すことで、目先のKPIだけでなく、事業全体のボトルネックはどこにあるのか、最も投資対効果の高い施策は何かを判断できるようになります。このような「戦略家」としての人材は、どの企業からも強く求められます。

転職市場で差がつく「顧客体験(CX)」設計能力

近年、マーケティングの世界では「CX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)」の重要性が叫ばれています。商品の機能や価格だけで差別化することが困難になった今、顧客にいかにして「良い体験」を提供できるかが、ビジネスの勝敗を分けるからです。

カスタマージャーニーマップは、このCXを設計するための設計図そのものです。このスキルを持つあなたは、転職市場において「私は顧客体験を設計し、改善することができます」という、極めて強力なアピールができます。これは、単に「広告運用ができます」と言うよりも、はるかに付加価値の高いスキルアップの証明となるでしょう。

リスキリングで学ぶべき「再現性のある思考法」

これからリスキリングWebマーケティングを学ぼうと考えている方にとって、カスタマージャーニーマップはぜひ習得してほしい思考法です。特定のツールの使い方やテクニックは時代と共に陳腐化しますが、「顧客を深く理解し、その行動と心理に基づいて施策を考える」という思考のフレームワークは、普遍的な価値を持ちます。

この思考法を身につけることで、未知の課題に直面したときも、闇雲に施策を打つのではなく、まずは顧客の旅を可視化することから始められるようになります。これは、どんな業界や商材にも応用が効く、再現性の高い問題解決能力です。

顧客の旅路を照らす地図を、あなたの手に

この記事では、カスタマージャーニーマップの重要性から、明日から使える具体的な作成ステップ、そしてこのスキルがもたらすキャリアへの好影響までを詳しく解説しました。

カスタマージャーニーマップは、一度作って終わりではありません。市場や顧客の変化に合わせて定期的に見直し、育てていく「生きた地図」です。この地図があれば、あなたはマーケティングという大海原で道に迷うことはありません。

顧客の行動と心理を可視化し、組織の共通言語とし、分断された施策を繋ぎ合わせる。

この強力なツールは、あなたの会社のビジネスを成長させるだけでなく、あなた自身のWebマーケターとしての価値を飛躍的に高めてくれるはずです。スキルアップキャリアアップ、そして転職リスキリングの成功を本気で目指すなら、まずは顧客という一人の人間の「旅」を深く理解することから始めてみてください。

その地図は、あなたの輝かしいキャリアへの道筋をも、きっと照らしてくれるでしょう。

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