30代の転職、年収を下げずにWebマーケターになるための交渉術

2025.07.23

Webマーケティングという、将来性あふれる分野への転職を決意した30代。リスキリングにも励み、新たなキャリアへの希望に胸を膨らませる一方で、現実的な不安が頭をよぎります。

「未経験からの挑戦だから、年収ダウンは覚悟しないといけないんだろうか…」
「家族もいるし、生活レベルはできるだけ維持したい。でも、そんな交渉ができるのだろうか…」

その不安、非常によく分かります。30代の転職は、20代のそれとは異なり、守るべき生活や背負う責任の重みが違います。「年収」という条件は、決して軽視できない重要な要素です。

結論から言えば、30代未経験の転職で年収を維持、あるいは向上させることは、決して不可能ではありません。しかし、そのためには「未経験だから仕方ない」という受け身の姿勢を捨て、自らの価値を戦略的に提示し、企業と対等に交渉する「技術」が不可欠です。

この記事は、単なる精神論ではありません。年収交渉を成功へと導くための、具体的な準備、面接での立ち居振る舞い、そして内定後の交渉術までを網羅した、実践的なガイドブックです。あなたの市場価値を最大化し、納得のいく条件で、新しいキャリアの扉を開きましょう。

交渉の前に知るべき「30代未経験」の市場価値と現実

効果的な交渉のためには、まず自分たちが立っている場所、つまり「市場」を正しく理解する必要があります。なぜ年収が下がりやすいのか、そして、それにどう抗うべきかを冷静に分析しましょう。

なぜ「年収ダウン」が起こりやすいのか？企業の論理

まず、企業側の視点を理解しておきましょう。彼らが未経験者に対して、経験者よりも低い給与を提示するのには、合理的な理由があります。

教育コストの発生: あなたを一人前のマーケターに育てるため、企業は研修やOJTに時間と人件費という「教育コスト」を投資します。
即戦力ではないリスク: 入社後すぐには、給与に見合ったパフォーマンスを発揮できない可能性があります。企業側は、そのリスクを給与額に反映させます。
実務能力が未知数: スクールや独学で知識はあっても、リアルなビジネスの現場でそれをどう活かせるかは、実際に働いてみるまで未知数です。

この企業の論理を「それはそうだ」と一度受け入れることが、冷静な交渉の第一歩です。感情的に反発するのではなく、この懸念を払拭する材料を、こちらが提示すれば良いのです。

あなたの価値は「Webスキル」だけではない。「経験価値」を再定義する

ここからが本題です。あなたの市場価値は、「Webマーケティングのスキル」だけで決まるわけではありません。むしろ、30代のあなたの本当の価値は、以下の3つの要素の「掛け算」によって生まれます。

あなたの市場価値 = A（Webスキル） × B（ポータブルスキル） × C（業界・職務経験）

A：Webスキル: リスキリングによって身につけた、Webマーケティングの専門知識や技術。
B：ポータブルスキル: 前職までの10年以上の社会人経験で培った、コミュニケーション能力、課題解決能力、プロジェクト管理能力、交渉力など、どこでも通用する力。
C：業界・職務経験: 例えば、金融業界にいたなら金融商品の知識、営業職だったなら顧客折衝の経験など、特定の分野での深い知見。

年収交渉とは、このBとCという、20代の若手にはない「経験価値」を、企業に「見える化」し、いかに高く評価してもらうかというゲームなのです。

「年収相場」を把握する。交渉の土台となる客観的データ

自分の価値を主張する上で、客観的なデータは強力な武器になります。転職活動を始める前に、Webマーケターの年収相場を徹底的にリサーチしましょう。

転職サイトの求人情報を分析: 未経験者向け、経験3年、5年など、レベル別の求人に記載されている年収レンジを確認します。
口コミサイトや年収査定ツールを活用: 企業のリアルな年収情報や、自分の経歴に基づいた想定年収を把握します。

このリサーチにより、「未経験でも、ポテンシャル次第では年収〇〇万円も狙える市場なんだな」という客観的な根拠を持つことができ、交渉の場で臆することなく、堂々と希望を伝えられるようになります。

【準備編】年収交渉を有利に進めるための3つの仕込み

年収交渉は、内定後の最終面談でいきなり始まるものではありません。応募の段階から、周到な「仕込み」をしておくことで、交渉の成功率は劇的に高まります。

仕込み1：「提供価値」の言語化とポートフォリオの作り込み

交渉のテーブルにつくには、まず「内定」を勝ち取らなければなりません。そして、高い評価を得るためには、あなたの「提供価値」を、誰の目にも明らかな形で提示する必要があります。

職務経歴書でのアピール: 前述した「B：ポータブルスキル」と「C：業界・職務経験」が、応募先企業でどのように活かせるのかを、具体的なエピソードを交えて記述します。
ポートフォリオの作成: 「A：Webスキル」を証明するための、最重要ツールです。独学やスクールで作成したWebサイト、ブログのアクセス解析レポート、架空の広告キャンペーン企画書など、「自分はこれだけのことができる」という成果物を必ず用意しましょう。ポートフォリオの質と熱量が、あなたの初期評価を大きく左右します。

仕込み2：「希望年収」と「最低ライン」の明確化

交渉に臨むにあたり、自分の中に明確な基準を持つことが重要です。以下の2つの金額を、事前に算出しておきましょう。

希望年収（強気の目標）: あなたのスキルや経験、そして市場価値を総合的に判断し、「この金額なら大満足」という理想の金額。現年収の10%増しなどが一つの目安になります。
最低ライン（譲れない一線）: これを下回るなら、今回の転職は見送るという、あなたの生活を守るための最低限の金額。現年収維持、あるいは生活費から算出した金額などが基準になります。

この2つの軸を持つことで、交渉の場で冷静な判断を下すことができ、「雰囲気に流されて、不本意な条件で合意してしまった」という事態を防げます。

仕込み3：企業研究と「貢献イメージ」の具体化

応募する企業一社一社について、徹底的にリサーチし、「自分なら、この会社でこう貢献できる」という具体的なイメージを作り上げます。

企業のビジネスモデルと、現在の課題は何か？
その課題に対し、自分の「経験価値（B×C）」と「Webスキル（A）」をどう活かせるか？

面接でこれを具体的に語ることができれば、企業側は「この人は、単なる未経験者ではない。当社の課題を解決してくれる、価値ある人材だ」と認識します。この「入社後の活躍イメージ」を抱かせることができれば、おのずとあなたへの評価は高まり、年収交渉も有利に進められるのです。

【実践編】面接から内定後まで。交渉を成功させる伝え方・タイミング

準備が整ったら、いよいよ実践です。各フェーズで、どのように振る舞い、何を伝えるべきかを見ていきましょう。

面接で「希望年収」を聞かれたときの模範解答

面接の初期段階で希望年収を聞かれた際、具体的な金額をストレートに伝えるのは得策ではありません。まだあなたの価値が十分に伝わっていない段階で、金額だけが一人歩きしてしまうリスクがあるからです。

＜模範解答例＞
「現在の年収が〇〇円ですので、同等以上を希望しております。しかし、まずは私のスキルや経験が、御社でどの程度貢献できるかをご判断いただくのが第一と考えております。最終的な条件につきましては、内定をいただけた際に、御社の規定と私の評価を踏まえて、ご相談させていただけますと幸いです。」

このように、現在の年収を伝えつつも、最終的な判断は後のフェーズに委ねるという、丁寧で戦略的な回答を心がけましょう。

内定通知後が交渉のゴールデンタイム。切り出し方と交渉の進め方

内定が出た後こそ、最大の交渉チャンスです。企業は、時間とコストをかけて、あなたを「採用したい」と判断したのですから、あなたの立場は以前よりも強くなっています。

感謝と入社意欲を伝える: まずは、内定に対する感謝と、入社したいという前向きな気持ちを伝えます。
提示された条件を確認し、相談を切り出す: 提示された年収を確認した上で、「素晴らしいオファーをありがとうございます。ぜひ前向きに検討させていただきたいのですが、一点だけ、給与の面でご相談させていただくことは可能でしょうか」と、謙虚かつ明確に切り出します。
希望額と根拠を提示する: 事前に準備した「希望年収」を伝えます。その際、「前職での〇〇という経験や、今回の面接を通じて、〇〇という形で貴社に貢献できると確信したため、〇〇円を希望しております」と、あなたの価値と貢献意欲を根拠として添えることが重要です。