【職種研究】SNSマーケティング担当者の仕事：企画力と分析力が鍵

2025.07.21

たった一本の投稿が、社会的なムーブメントを巻き起こす。
心ない一言が、企業のブランドイメージを一夜にして失墜させる。

リアルタイムの「共感」と「対話」が渦巻く、エキサイティングで、時に危険な情報の海。その最前線で、企業の「顔」としてユーザーと向き合い、コミュニティを育て、ビジネスを成長へと導く航海士。それが「SNSマーケティング担当者」です。

Webマーケティングの中でも、特に華やかでクリエイティブなイメージを持たれがちなこの職業。しかし、その実態は、単に「SNSが得意な人」というだけでは決して務まりません。成功の裏側には、ユーザーの心を掴む「企画力」と、成果を冷静に見極める「分析力」という、二つの強力なエンジンが不可欠なのです。

この記事では、そんなSNSマーケティング担当者という仕事について、徹底的な【職種研究】をお届けします。具体的な業務内容から、求められるスキル、そしてそのキャリアパスまで。リスキリングによってこの分野への転職やキャリアアップを目指すあなたが、未来の自分を具体的に描くための、リアルな羅針盤となるはずです。

SNSマーケティング担当者とは？- 企業の「人格」を創るコミュニケーター

まず、SNSマーケティング担当者が、現代の企業においてどのようなミッションを担い、なぜその価値が高まっているのかを理解しましょう。

そのミッションと、Webマーケティングにおける重要性

SNSマーケティング担当者の最大のミッションは、「SNSというプラットフォームを通じて、ユーザーとの間に良好で、かつ長期的な関係性を築き、ブランドへの愛着（エンゲージメント）を高めることで、最終的に企業のビジネス目標に貢献すること」です。

彼らは、企業の公式な「声」として情報を発信する広報担当であり、ユーザーの声に耳を傾ける「お客様窓口」であり、ブランドのファンが集う「コミュニティ」の管理人でもあります。

広告が「認知」を、SEOが「検索からの流入」を主に担うとすれば、SNSマーケティングは、顧客との「関係構築」と「ファン育成」という、極めて重要な役割を担います。熱心なファンは、商品をリピート購入してくれるだけでなく、自らのSNSで好意的な口コミ（UGC：ユーザー生成コンテンツ）を発信してくれる、最強の応援団となってくれるのです。

単なる「中の人」ではない、戦略的な役割

SNS担当者は、しばしば「中の人」と親しみを込めて呼ばれますが、その仕事は、決して思いつきで投稿しているわけではありません。

どのプラットフォーム（Instagram, X, TikTokなど）で、どのような「人格（トーン＆マナー）」を演じるべきか。
どのような投稿が、ユーザーの共感を呼び、保存やシェアに繋がりやすいか。
どのくらいの頻度で、どの時間帯に投稿するのが、最も効果的か。
投下したリソース（時間、人、時には広告費）に対して、どれだけのリターンがあったのか。

これら全てを、データに基づいて戦略的に考え、実行し、改善していく。それが、プロのSNSマーケティング担当者の仕事です。

求められる人物像：トレンドセッターであり、冷静な分析家

この職種で成功するためには、一見すると相反するような、二つの側面を併せ持つことが理想です。

クリエイティブな側面: 世の中のトレンドに敏感で、新しい表現を試すことを恐れない。人の心を動かす言葉やビジュアルに対する感性が豊か。
ロジカルな側面: 数字と向き合うことを厭わない。データに基づき、冷静に施策の効果を分析し、次のアクションを論理的に考えられる。

この「アート」と「サイエンス」の両輪を回せることこそが、優れたSNSマーケターの条件であり、この分野のスキルアップの面白さでもあります。

【仕事内容】SNSマーケターの二大スキル「企画力」と「分析力」

SNSマーケティング担当者の日々の業務は、大きく「企画力」が求められるクリエイティブな仕事と、「分析力」が求められるロジカルな仕事に分けられます。

「企画力」が求められる業務：ユーザーの心を掴むクリエイティブワーク

これは、ユーザーに「面白い！」「タメになる！」「素敵だ！」と思ってもらうための、アイデアと実行力が試される業務です。

① コンテンツ企画・制作

月間や週間の投稿計画（コンテンツカレンダー）を立て、それに沿って日々の投稿を作成します。Instagramであれば、世界観を伝える美しい写真やリール動画を。Xであれば、時事性のある情報や、ユーザーに問いかけるようなテキストを。TikTokであれば、流行の音楽やエフェクトを使ったショート動画を企画・制作します。簡単な画像加工や動画編集スキルも、このフェーズで大いに役立ちます。

② キャンペーン立案・実行

フォロワー増加や、特定商品の認知度向上のために、期間限定のキャンペーンを企画します。「フォロー＆リポストでプレゼント」といった参加しやすいものから、ユーザーに特定のハッシュタグを付けて投稿してもらうUGC創出型のものまで、その手法は様々です。

③ インフルエンサーマーケティング

自社のブランドや商品と親和性の高いインフルエンサーを選定し、PR投稿を依頼します。単にフォロワー数が多いだけでなく、本当にブランドの価値を理解し、熱量を持って伝えてくれる人を見極める選球眼が重要になります。

「分析力」が求められる業務：データから成果を導き出すロジカルワーク

企画した施策が、実際にどのような効果をもたらしたのかを、客観的なデータで検証し、次のアクションに繋げる業務です。

① KPI設定と効果測定

キャンペーンを開始する前に、「エンゲージメント率を〇%向上させる」「Webサイトへのクリック数を〇件獲得する」といった、具体的な目標（KPI）を設定します。そして、施策終了後、各プラットフォームが提供する分析ツール（インサイトなど）を使い、その結果を測定します。

② 定期レポーティング

週次や月次で、SNSアカウント全体のパフォーマンスをレポートにまとめ、上司や関係部署に報告します。フォロワー数の増減、各投稿のエンゲージメント率、ユーザー属性の変化などを分析し、「なぜ、このような結果になったのか」という考察を加えることが重要です。

③ 投稿分析と改善

「なぜ、この投稿は『いいね！』が多かったのか？」「どの時間帯に投稿すると、最も多くの人に見てもらえるのか？」といった分析を、投稿ごとに行います。この地道な分析の積み重ねが、アカウント全体の「勝ちパターン」を見つけ出すことに繋がります。

④ ソーシャルリスニング

専用ツールなどを使い、SNS上で、自社ブランドや競合、関連キーワードが、どのように語られているかを調査します。ユーザーのリアルな本音を把握し、新たな企画のヒントを得たり、炎上などのリスクを早期に察知したりする、重要な活動です。

【1日の流れ】あるSNSマーケティング担当者のリアルなスケジュール

では、これらの業務を、SNSマーケティング担当者はどのように一日の中でこなしているのでしょうか。あるアパレルブランドの担当者の、典型的な一日を覗いてみましょう。

9:00 – 10:00 | 朝の巡回と情報収集
出社後、まず担当する全SNSアカウントをチェック。夜間に届いたコメントやDMに返信し、自社に関する投稿（メンション）に「いいね！」などで反応します。同時に、Xやニュースアプリで、今日のトレンドや話題をインプットします。
10:00 – 12:00 | コンテンツ制作と予約投稿
午後に投稿するInstagram用の画像を選定・加工し、ユーザーの心に響くキャプション（文章）を考えます。さらに、今週分の投稿コンテンツを、SNS管理ツール（Bufferなど）を使って予約設定。効率的に運用するための仕組み作りも大切な仕事です。
12:00 – 13:00 | 昼休憩
ランチをしながらも、個人のアカウントでTikTokやInstagramをチェック。仕事という意識ではなく、一人のユーザーとして、純粋に楽しみながら、新しいトレンドや表現のヒントを探します。
13:00 – 15:00 | 分析とレポーティング作業
先週実施したキャンペーンのデータを集計し、レポート作成に取り掛かります。エンゲージメント率やフォロワーの増減数をグラフ化し、「今回の成功要因は〇〇であったため、次回のキャンペーンでは△△に注力すべき」といった考察をまとめていきます。
15:00 – 17:00 | 戦略・企画ミーティング
来月の新商品ローンチに向け、マーケティングチームでブレインストーミング。自身の分析結果を元に、「今回は、TikTokでのショート動画を軸に、若年層へのアプローチを強化しましょう」といった、データに基づいた企画を提案します。
17:00 – 18:00 | コミュニティ・エンゲージメントと翌日の準備
日中の投稿に寄せられたコメントに、丁寧に返信していきます。ユーザーとの積極的な対話が、コミュニティの熱量を高めます。最後に、明日の朝に投稿するコンテンツの最終確認を行い、一日を終えます。

SNSマーケターへのキャリアパスと、未経験からの目指し方

このダイナミックな職種へのキャリアパスと、未経験から挑戦するためのリスキリング計画を見ていきましょう。

SNSマーケターの年収とキャリアパス

SNSマーケティング担当者は、その専門性と需要の高さから、安定したキャリアを築くことが可能です。

年収イメージ:
- 担当者クラス（未経験～3年）: 400万円～600万円
- マネージャー／戦略プランナークラス: 600万円～900万円
- 独立／コンサルタント: 800万円以上
キャリアパス:
1. SNSのスペシャリスト: 特定のプラットフォームや、インフルエンサーマーケティングなどの専門家として、道を極める。
2. コンテンツマーケティング責任者: SNSだけでなく、ブログや動画など、コンテンツ全体の戦略を担う立場へキャリアアップする。
3. Webマーケティングマネージャー: より視野を広げ、SEOや広告など、Webマーケティング全体の統括責任者を目指す。
4. 独立・フリーランス: 企業で培った実績を元に、フリーのSNSコンサルタントとして、複数の企業を支援する。

未経験からの「リスキリング」成功ルート

未経験からでも、正しいステップで学習と実践を積めば、SNSマーケターへの転職は十分に可能です。

STEP1: 徹底的なインプットと「ユーザー視点」の獲得:
まずは、各SNSのヘビーユーザーになりましょう。そして、「なぜ、このアカウントは人気があるのか？」「なぜ、この投稿はバズったのか？」を、自分なりに分析し、言語化する癖をつけます。これが、全ての基本となる「ユーザー視点」を養います。
STEP2: 個人アカウントで「運用者視点」を養う:
これが最も重要です。自分の趣味や好きなことをテーマに、個人でアカウントを立ち上げ、「フォロワー1000人」といった具体的な目標を立てて運用してみましょう。コンテンツを企画し、投稿し、インサイト機能でデータを分析するというPDCAサイクルを回した経験は、転職活動における何よりの「実績」となります。
STEP3: 基礎的なクリエイティブスキルを身につける:
Canva（画像編集）やCapCut（動画編集）といった、無料で使える高機能なアプリを使いこなせるようになっておくと、大きな強みになります。
STEP4: 知識の体系化と実務経験への挑戦:
実践で得た感覚を、書籍やオンライン講座で、マーケティングの理論として体系的に学び直します。「SNSエキスパート検定」などの資格に挑戦するのも良いでしょう。その上で、企業のインターンシップや、アシスタント職などに応募し、実務経験を積むチャンスを探します。