「SEOに強い記事を書けるようになった」
「Web広告の管理画面の操作は、一通り覚えた」
「Instagramのフォロワーを増やすコツも、分かってきた」
Webマーケティングの個別の戦術(“木”)を学ぶことは、スキルアップの重要な一歩です。しかし、それらの戦術をただ場当たり的に実行しているだけでは、まるで地図も目的地も持たずに、高性能なエンジンと鋭い舵を持つ船で、闇雲に海をさまよっているようなものです。
なぜ、あなたのマーケティング施策は、期待したほどの成果を生まないのでしょうか?その原因のほとんどは、全ての活動の土台となる「Webマーケティング戦略」、すなわち「森」全体を設計する視点が欠けていることにあります。
この記事では、単なる「作業者」から、ビジネスの成果に責任を持つ「戦略家」へと、あなたのキャリアアップを加速させるための、Webマーケティング戦略の立て方を、目的設定からKPI策定まで、具体的な7つのステップで徹底的に解説します。
この戦略的思考法は、あなたのリスキリングの旅において、最も価値のあるスキルセットとなるでしょう。
なぜ、場当たり的な施策は失敗するのか?戦略の重要性
戦略なき戦術は、徒労に終わる。これは、ビジネスにおける不変の真理です。「流行っているから」という理由でTikTokを始めたり、「競合がやっているから」という理由で広告を出したり。こうした場当たり的な施策が、なぜ失敗しやすいのでしょうか。
「木を見て森を見ず」の罠
戦略がない状態とは、「木を見て森を見ず」という状態に他なりません。
- リソースの浪費: それぞれの施策が連携していないため、限られた予算や時間、人材といった貴重なリソースが分散し、中途半端な結果しか生まれません。
- メッセージの不一致: 各チャネルで発信するメッセージに一貫性がなくなり、顧客にブランドの価値が正しく伝わりません。
- 成果の測定不能: そもそも最終的なゴールが明確でないため、個々の施策が成功だったのか失敗だったのかを、正しく評価することすらできません。
これでは、どんなに優れたスキルアップをしても、ビジネスの成果に繋げることは難しいでしょう。
戦略がもたらす3つの力
一方で、明確なWebマーケティング戦略は、あなたの活動に3つの強力な力を与えてくれます。
- 羅針盤の力: チーム全体が「どの山の頂上を、どのルートで目指すのか」という共通の目標と方向性を持つことができます。
- 資源配分の力: 「どの武器(施策)に、どれだけの弾薬(予算・工数)を集中させるべきか」という、最適なリソース配分を可能にします。
- 意思決定の力: 「この新しいアイデアは、我々の戦略に合致しているか?」という明確な判断基準を提供し、日々の意思決定のブレを防ぎます。
【完全ガイド】Webマーケティング戦略策定の7ステップ
それでは、ここから、具体的で、実行可能なWebマーケティング戦略を策定するための、7つのステップを順に見ていきましょう。
STEP1:環境分析 – 3C分析で現在地を正確に把握する
どんな旅も、まずは現在地を知ることから始まります。マーケティング戦略における現在地把握のための、最も基本的で強力なフレームワークが「3C分析」です。
- Customer(市場・顧客):
- 市場の規模や成長性はどうか?
- 顧客は誰で、どのようなニーズや課題を抱えているのか?
- 顧客の購買行動(情報収集の方法、購入の決め手など)はどのようなものか?
- Company(自社):
- 自社の強み(Strength)と弱み(Weakness)は何か?(SWOT分析も有効)
- 自社の製品やサービスの、独自の価値は何か?
- 使える予算や人材といったリソースは、どのくらいあるのか?
- Competitor(競合):
- 主要な競合は誰か?
- 競合は、どのような戦略を取り、どのような強みを持っているのか?
- 競合が満たせていない、市場の「隙間(機会)」はどこにあるか?
この3つの視点から、自社が置かれている状況を客観的に分析することが、全ての戦略の土台となります。
STEP2:目的設定 – KGIを明確にし、ゴールを定める
環境分析で現在地が分かったら、次はこの戦略を通じて達成したい、最終的なゴールを定義します。ビジネスの世界では、これをKGI(Key Goal Indicator / 重要目標達成指標)と呼びます。
KGIは、曖昧な精神論ではなく、具体的で、測定可能な目標でなければなりません。
- 悪い例: 「会社の売上を伸ばす」「ブランドの認知度を高める」
- 良い例:
- 「Webサイト経由の売上を、1年後に、現在の月商500万円から800万円に引き上げる」
- 「BtoBサービスの、オンラインでの新規リード獲得件数を、半年間で月間50件から100件に倍増させる」
このKGIが、あなたの戦略全体の「北極星」となります。
STEP3:ターゲット設定 – ペルソナを鮮明に描き出す
「すべての人」をターゲットにすることは、「誰にも響かない」ことと同義です。KGIを達成するために、あなたがアプローチすべき、最も重要で、最も熱量の高い顧客層は誰なのかを定義します。そのために有効な手法が「ペルソナ設定」です。
ペルソナとは、あなたの理想的な顧客を、まるで実在する一人の人物のように、詳細に描き出したものです。
- 基本情報: 年齢、性別、職業、年収、居住地、家族構成など
- 価値観・性格: どのようなライフスタイルを送り、何を大切にしているか
- 情報収集行動: 普段、どのようなメディア(SNS、雑誌、Webサイトなど)に接触しているか
- 悩み・課題: その人物が、あなたの製品・サービスに関連する領域で、どのようなことに困り、何を解決したいと思っているか
このペルソナを鮮明に描くことで、チーム全員が「〇〇さん(ペルソナ名)に届けるためには、どうすればいいか?」という、共通の顧客視点を持つことができます。
STEP4:提供価値の定義 – 独自の強み(USP)を言語化する
ターゲットであるペルソナに対し、競合ではなく、なぜ「あなた」の製品・サービスを選ぶべきなのか。その理由を、明確な言葉で定義します。これをUSP(Unique Selling Proposition / 独自の売り)と呼びます。
USPは、STEP1の3C分析で明らかになった、「顧客が求めていて(Customer)、競合は提供できておらず(Competitor)、自社だけが提供できる(Company)独自の強み」から導き出されます。
- 例: 「忙しいビジネスパーソン(ペルソナ)のための、業界で唯一、専属コンサルタントが付く、挫折させないオンラインリスキリング講座(USP)」
このUSPが、今後の全てのマーケティングメッセージの核となります。
STEP5:チャネル・施策選定 – カスタマージャーニーに沿って考える
目的(KGI)、ターゲット(ペルソナ)、提供価値(USP)が定まったら、いよいよ具体的な戦術の選定です。ここで重要なのが、「カスタマージャーニー」の視点です。
カスタマージャーニーとは、ペルソナが、あなたの製品を全く知らない状態から、最終的にファンになるまでの「旅の地図」です。この旅の各段階で、ペルソナの心理状態に合わせて、最適なチャネルと施策を配置していきます。
- 認知段階: まだ何も知らないペルソナに、まずは存在を知ってもらう。
- 施策例: SNS広告、ディスプレイ広告、SEO(お悩み解決系のキーワード)
- 興味・関心段階: 興味を持ったペルソナに、より詳しい情報を提供する。
- 施策例: 詳細なブログ記事、ホワイトペーパー、メールマガジン登録
- 比較・検討段階: 競合と比較しているペルソナに、自社を選ぶ理由を提示する。
- 施策例: 導入事例、お客様の声、他社比較記事、無料相談会
- 購入・契約段階: 最後のひと押しで、行動を促す。
- 施策例: リスティング広告(指名検索)、リターゲティング広告、限定クーポン
STEP6:KPI策定 – 目標達成への道のりを可視化する
KGIという最終ゴールにたどり着くための、中間的なチェックポイントを設けます。これがKPI(Key Performance Indicator / 重要業績評価指標)です。
KPIは、STEP5で選定した各施策の成果を、具体的な数値で測るための指標です。
- KGI: Webサイト経由の売上月800万円
- KPIの例:
- Webサイトの月間セッション数:20万
- セッションからのCVR(購入率):1%
- 購入単価:4,000円
- (計算:20万セッション × 1% × 4,000円 = 800万円)
このようにKPIを設定することで、KGI達成へのプロセスが分解され、「今月はセッション数が足りないから、SEOとSNS広告を強化しよう」といった、具体的なアクションに繋がりやすくなります。
STEP7:実行・分析・改善 – PDCAサイクルを回す
戦略は、策定して終わりではありません。実行し、その結果を分析し、改善し続けることで、初めて生きたものとなります。
- Plan(計画): ここまでのSTEP1~6で立てた戦略。
- Do(実行): 計画に基づき、コンテンツ制作や広告出稿などの施策を実行する。
- Check(評価): Webアナリティクスツールを使い、設定したKPIが達成できているかを、データで検証する。
- Act(改善): 検証結果に基づき、「なぜうまくいったのか」「なぜうまくいかなかったのか」を分析し、次の計画(Plan)を、より精度の高いものへと改善する。
このPDCAサイクルを、粘り強く回し続けることこそが、Webマーケティング戦略を成功に導く、唯一の道です。
戦略立案スキルを身につけ、市場価値の高いマーケターへ
この7つのステップを見て、「難しそうだ」と感じたかもしれません。しかし、この戦略立案のスキルこそが、あなたを、単なる「作業者」から、ビジネスの成長に不可欠な「パートナー」へと引き上げる、最も価値ある能力です。
「作業者」から「事業の成長パートナー」への進化
個別の施策を実行できるマーケターは、世の中にたくさんいます。しかし、「なぜ、その施策が必要なのか」を、ビジネス全体の視点から、論理的に説明し、設計できる人材は、非常に希少です。この戦略的思考を身につけることは、あなたの市場価値を飛躍的に高め、より上流の、やりがいのある仕事へと繋がる、確実なキャリアアップの道筋です。
未経験からのリスキリングで、戦略思考をどう学ぶか?
- フレームワークを学ぶ: まずは、3C分析やSWOT分析、ペルソナ設定といった、この記事で紹介したような基本的なフレームワークを、書籍やオンライン講座で学びましょう。
- 仮想で戦略を立ててみる: 自分の好きなブランドや、自身の個人ブログなどを題材に、この7つのステップに沿って、仮想のWebマーケティング戦略を立ててみてください。この「思考のトレーニング」が、非常に有効です。
- 実務で「なぜ?」を問い続ける: 今の仕事で、上司から「このバナーを作って」と指示された時、ただ作るだけでなく、「なぜ、このタイミングで、このターゲットに、このメッセージを伝える必要があるのですか?」と、その裏側にある戦略(=Why)を問い、理解しようと努める癖をつけましょう。
まとめ:戦略なきマーケティングは、ギャンブルである
本記事では、Webマーケティング戦略の立て方を、具体的な7つのステップに沿って解説してきました。
Webマーケティング戦略策定の7ステップ
- 環境分析(3C分析): 現在地を知る
- 目的設定(KGI): ゴールを決める
- ターゲット設定(ペルソナ): 誰に届けるかを決める
- 提供価値の定義(USP): 何で選ばれるかを決める
- チャネル・施策選定: どうやって届けるかを決める
- KPI策定: 道のりを測る物差しを持つ
- 実行・分析・改善(PDCA): 旅を続け、ルートを最適化する
場当たり的なマーケティングは、ギャンブルと同じです。当たることもあれば、外れることもある。しかし、ビジネスはギャンブルであってはなりません。
しっかりとした戦略に基づいたWebマーケティングは、成果を再現性のあるものにし、あなたのスキルアップの努力を、着実にビジネスの成長へと結びつけます。ぜひ、この7つのステップを、あなたのリスキリングや実務の羅針盤として、活用してみてください。