UI/UXの基本：なぜWebマーケターもデザインの知識が必要なのか

2025.07.21

多大な予算と時間をかけて広告を打ち、SEO対策に心血を注ぎ、ようやくWebサイトにユーザーを集める。しかし、訪問したユーザーが数秒で離脱してしまい、コンバージョンに一向に繋がらない…。そんな苦い経験はありませんか？

その原因は、あなたが集めた「ユーザーの期待」と、Webサイトが提供する「体験」の間に、大きな溝があるからかもしれません。この溝を埋め、マーケティングの成果を最大化する鍵こそが「UI/UX」です。

「UI/UXはデザイナーの仕事で、マーケターには関係ない」
もしあなたがそう考えているなら、それは大きな機会損失です。現代のWebマーケティングにおいて、UI/UXの知識はもはや専門職だけのものではありません。キャリアアップを目指すすべてのマーケターにとって、必須の教養となりつつあります。

この記事では、UI/UXの基本的な概念から、なぜマーケターがそれを学ぶべきなのか、そして明日から実践できる基本原則までを徹底的に解説します。さらに、このスキルがあなたのスキルアップや転職活動において、いかに強力な武器となるのか、5000文字以上のボリュームで具体的にお伝えします。

この記事を読み終えたとき、あなたは「集客」と「顧客体験」の両輪を回せる、市場価値の高いマーケターへの第一歩を踏み出しているはずです。

まずは基本から！UIとUX、その違いと密接な関係

UI/UXという言葉はよく一緒に使われますが、それぞれの意味を正確に説明できるでしょうか。まずはこの2つの言葉の定義と、切っても切れない関係性について理解を深めましょう。

UI (ユーザーインターフェース) とは？ – 「接点」のデザイン

UIとは「User Interface（ユーザーインターフェース）」の略で、直訳すると「利用者との接点」を意味します。Webサイトやアプリにおいては、ユーザーが目にするすべての視覚的な情報がUIにあたります。

Webサイトのレイアウト
ボタンのデザインや色
テキストのフォントや大きさ
写真やイラストなどの画像

これらはすべてUIの構成要素です。例えるなら、レストランの「メニューブックのデザイン」や「店内の内装」がUIです。文字が読みやすいか、写真が美味しそうか、内装がおしゃれか、といった「見た目」や「使いやすさ」の部分がUIの品質を決定します。

UX (ユーザーエクスペリエンス) とは？ – 「体験」のデザイン

UXとは「User Experience（ユーザーエクスペリエンス）」の略で、文字通り「利用者の体験」を意味します。ある製品やサービスを通じてユーザーが感じる、あらゆる体験の総称がUXです。

「このサイトは情報が探しやすいな」という分かりやすさ
「商品の購入手続きがスムーズで簡単だった」という快適さ
「読んでいて楽しい、また訪れたい」という心地よさ
「問い合わせへの返信が早くて助かった」という満足感

これらすべての感情や感想がUXです。先ほどのレストランの例で言えば、「Webサイトで簡単に予約ができた」「店員さんの接客が素晴らしかった」「料理が美味しかった」「また来たいと思った」という、来店前から退店後に至るまでの一連の体験すべてがUXにあたります。

UIはUXの一部であり、良いUXは良いUIから生まれる

UIとUXの関係は、「UI ⊂ UX」と表現できます。つまり、UIはUXを構成する数ある要素の中の一つであり、非常に重要な部分を占めています。

どんなに素晴らしい料理（コンテンツ）があっても、メニューブック（UI）が汚くて読みにくければ、注文する気が失せ、良い食事体験（UX）は得られません。
逆に、どんなにおしゃれな内装（UI）でも、料理が不味かったり接客が悪かったりすれば、やはり良い体験（UX）にはなりません。

優れたUIは、優れたUXの土台となります。WebマーケターがUI/UXを学ぶということは、単に見た目を良くする方法を学ぶのではありません。ユーザーに最高の体験を提供し、最終的にビジネスの成果に繋げるための「おもてなしの心」を設計するスキルを学ぶことなのです。

なぜマーケターがUI/UXを学ぶべきなのか？3つの決定的理由

UI/UXの基本を理解したところで、本題である「なぜマーケターが学ぶ必要があるのか」について、3つの決定的な理由を解説します。この3つを理解すれば、UI/UXがスキルアップに不可欠であることが明確にわかるはずです。

理由1：CVR（コンバージョン率）を最大化するため

マーケターの重要なミッションの一つは、Webサイトのコンバージョン率（CVR）を高めることです。SEOや広告でどれだけ多くのユーザーを集客しても、サイトを訪れたユーザーが商品購入や資料請求といった行動（コンバージョン）に至らなければ、その努力は水の泡となり、広告費は垂れ流しになってしまいます。

CVRを左右する最大の要因の一つが、UI/UXです。

「どこに申し込みボタンがあるのか分からない」（UIの問題）
「入力フォームの項目が多すぎて、途中で面倒になった」（UXの問題）
「スマホで表示が崩れていて、まともに読めない」（UIの問題）

このような「使いにくい」「分かりにくい」サイトは、ユーザーにストレスを与え、コンバージョン直前での離脱（カゴ落ちなど）を引き起こします。

UI/UXの知識を持つマーケターは、デザイナーに改善を丸投げするのではなく、データに基づいて「このボタンの色を変えればクリック率が上がるのではないか」「フォームの項目を減らせば離脱率が下がるはずだ」といった具体的な改善仮説を立て、A/Bテストなどを通じて検証（LPO：ランディングページ最適化）することができます。これは、マーケティングの費用対効果を直接改善する、極めて価値の高いスキルです。

理由2：SEOにおける「ユーザー体験」の重要性の高まり

かつてのSEOは、被リンクの数やキーワードの含有率といった技術的な要素が中心でした。しかし、Googleの進化に伴い、その評価基準は大きく変化しています。現在のGoogleが最も重視していることの一つが「ユーザーの検索意図を満たす、質の高い体験を提供できているか」です。

Googleは、ユーザー体験を測る指標として、以下のようなものを評価アルゴリズムに組み込んでいます。

コアウェブバイタル (Core Web Vitals): サイトの表示速度や安定性などを示す指標。
モバイルフレンドリー: スマートフォンでの閲覧に適しているか。
直帰率や滞在時間: ユーザーがサイトを訪れてすぐに離脱していないか、長く滞在しているか。

これらの指標はすべて、UI/UXの質と密接に関わっています。使いにくいサイトは直帰率が高まり、滞在時間も短くなります。それはGoogleに「このサイトはユーザーの役には立たない」と判断され、検索順位の低下に繋がる可能性があるのです。

つまり、優れたUI/UXを設計することは、もはや間接的なSEO対策ではなく、検索順位を上げるための直接的な施策と言えます。マーケターがこの視点を持つことで、より本質的で持続可能なSEO戦略を描くことが可能になります。

理由3：デザイナーやエンジニアとの円滑な連携のため

Webサイトの改善は、マーケターだけで完結するものではありません。デザイナーやエンジニアといった専門職との連携が不可欠です。しかし、職種が違うからこそ、コミュニケーションに壁が生まれがちです。

「もっとユーザーがクリックしたくなるようなデザインにしてください」
「なんとなく、このページは使いにくいので直してください」

このような抽象的な依頼では、デザイナーやエンジニアは何をどう改善すれば良いのか分からず、手戻りが増え、プロジェクトは停滞してしまいます。

UI/UXの基本原則や専門用語を理解しているマーケターは、共通言語で話すことができます。
「ここのCTAボタンは、背景色とのコントラストが弱くて視認性が低いので、ヤコブの法則に従って、もっと一般的な緑色系のボタンに変更するA/Bテストをしませんか？」
このように具体的かつ論理的に改善案を提案できれば、チーム内のコミュニケーションは劇的に円滑になり、改善のスピードと質も向上します。これは、チームを牽引するリーダーとしての能力の証明でもあり、キャリアアップを目指す上で非常に重要な資質です。

明日から使える！マーケターが知っておくべきUI/UXの基本原則

「理論は分かったけど、具体的に何をすればいいの？」という方のために、マーケターが最低限知っておきたいUI/UXの基本原則をいくつかご紹介します。これらを意識するだけで、あなたのWebサイトを見る目は大きく変わるはずです。

デザインの4つの基本原則（近接・整列・反復・コントラスト）

これはノンデザイナー向けのデザイン入門書などで必ず紹介される、最も基本的な原則です。

近接: 関係性の強い要素は、物理的に近づけてグループ化する。
整列: ページ上の要素は、目に見えない線で揃えることで、統一感と安定感を生む。
反復: 見出しのスタイルやボタンのデザインなど、同じ役割の要素は同じデザインを繰り返す。
コントラスト: 要素に強弱をつけて、最も見てほしい部分（例: CTAボタン）を際立たせる。

これらの原則は、ランディングページやバナー広告のデザインを評価・改善する際に、具体的な指標となります。

ヤコブの法則：ユーザーは「慣れ」を好む

これは、「ユーザーは、他のサイトで多くの時間を費やしているため、あなたのサイトにもそれらと同じように機能することを期待する」という法則です。
独創的で奇抜なデザインに挑戦したくなる気持ちも分かりますが、ユーザーが慣れ親しんだ「お決まりのパターン」（例: ロゴは左上、ナビゲーションは上部、など）から逸脱すると、ユーザーは使い方を学習するコストを強いられ、ストレスを感じて離脱しやすくなります。まずは「当たり前」のデザインを徹底することが、使いやすさの第一歩です。

UI/UXスキルを武器に、市場価値の高いマーケターへ

UI/UXの知識は、あなたのマーケターとしての可能性を大きく広げ、キャリアの選択肢を豊かにしてくれます。

「集客」と「改善」の両輪を回せる人材になる

多くのマーケターは「集客」のプロフェッショナルです。そこにUI/UXの知見、つまり「サイト内の改善」のスキルが加わることで、あなたはマーケティングファネルの入り口から出口までを一気通貫で見ることができる、非常に希少価値の高い人材になることができます。
集客施策とサイト改善施策を連動させ、相乗効果を生み出せるマーケターは、どんな企業からも必要とされます。

「リスキリング」でUI/UXを学ぶための学習ステップ

リスキリングでUI/UXを学ぶことは、決して難しいことではありません。

良質な本を読む: まずは『Don’t Make Me Think（考えさせないで）』のような、UI/UXの古典的名著を読んでみましょう。ノンデザイナー向けに書かれており、本質的な考え方が身につきます。
優れたサイトを分析する: なぜこのサイトは使いやすいのか、なぜこのボタンは押したくなるのか、基本原則に当てはめながら言語化するトレーニングをします。
ツールを使ってみる: 「Clarity」や「Hotjar」といったヒートマップツールを使えば、ユーザーがサイトのどこをよく見て、どこで離脱しているのかを視覚的に把握できます。無料から始められるので、ぜひ導入してみましょう。

UI/UXの知見は「転職」でどうアピールできるか

転職活動の際には、UI/UXの知識を具体的な実績としてアピールすることが重要です。
「UI/UXの観点からランディングページの改善提案を行い、A/Bテストを主導した結果、CVRを1.5%から2.5%に向上させた経験があります」
このように、課題発見から改善提案、そして具体的な成果までをストーリーとして語ることができれば、あなたの市場価値は飛躍的に高まります。これは、単に「集客ができます」とアピールするよりも、はるかに強力な武器となるでしょう。