DX推進における「不確実性への創造力」とは？IPAが示す6つの適性の鍛え方

2025.09.04

はじめに：なぜ今、「不確実性への創造力」が重要なのか？

現代社会は、VUCA（Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity：変動性、不確実性、複雑性、曖昧性）の時代と呼ばれています。テクノロジーの進化、グローバル化、そして予期せぬパンデミックなどにより、未来を予測することはますます困難になっています。このような不確実な時代を生き抜き、企業が成長していくためには、過去の成功体験や既存の常識にとらわれず、新しい価値を生み出す力が不可欠です。

この新しい価値を生み出す力こそが、「不確実性への創造力」です。

経済産業省が発表した「DXレポート」では、日本企業がDXを推進する上での課題として、デジタル人材の不足が指摘されています。しかし、単にITスキルを持つ人材を増やすだけでは、真のDXは実現しません。IPA（情報処理推進機構）が提唱する「DX推進スキル標準（DSS）」では、未来を切り拓くDX人材に求められる資質として、「6つの適性」が示されています。

本記事では、このIPAが示す6つの適性に焦点を当て、それぞれの具体的な意味と、それらをどのようにリスキリングやスキルアップによって身につけていくか、具体的な方法論を解説します。

1. 創造的適性：未知を面白がる探究心

「創造的適性」とは？

「創造的適性」とは、未知の課題や不確実な状況に対して、好奇心を持って探求し、新しいアイデアや解決策を生み出す力です。これは単なる芸術的なセンスやひらめきではなく、論理的な思考と柔軟な発想を組み合わせることで、イノベーションを生み出す能力を指します。DX推進においては、既存のビジネスプロセスをデジタルで置き換えるだけでなく、デジタル技術を活用して全く新しいビジネスモデルを創造することが求められます。

創造的適性を鍛える3つのステップ

① 問いを立てる力：常識を疑う習慣

創造性の出発点は、「なぜ？」という問いを立てる習慣です。日々の業務や身の回りの事象に対して、「なぜこうなっているんだろう？」「もっと良い方法はないか？」と自問自答することで、当たり前の中に潜む課題を発見できます。

例えば、

「なぜこの会議はいつも長時間に及ぶのだろう？」
「なぜこの顧客は競合他社に流れてしまうのだろう？」

といった問いから、新たな解決策の糸口が見つかることがあります。

② 異質なものとの出会い：多様な視点の獲得

自分の専門分野や所属する組織の枠を超え、多様な人々と交流することで、新しい視点を得ることができます。異なる業界のイベントに参加したり、オンラインコミュニティで議論したり、普段読まないジャンルの本を読んでみたりすることも有効です。Webマーケティングの知識を深めたいなら、他業種のマーケティング担当者と意見交換することで、自社にはない視点や施策のヒントが得られるかもしれません。

③ 失敗を恐れないマインドセット：プロトタイプ思考の実践

完璧なものを最初から作ろうとするのではなく、まずは粗削りでも良いので形にしてみる「プロトタイプ思考」が重要です。失敗を単なる失敗と捉えず、そこから学びを得ることで、より良いものへと改善していくことができます。小さな挑戦を繰り返し、キャリアアップにつなげていくための土台を築きましょう。

2. 探求的適性：課題の深層を探る分析力

「探求的適性」とは？

「探求的適性」とは、目の前の課題や事象に対し、表面的な情報だけでなく、その背景にある因果関係や本質的な要因を深く掘り下げていく力です。DXにおいては、単にデータを集計するだけでなく、そのデータが示す意味を読み解き、真の課題を見つけ出すことが求められます。この能力は、リスキリングや転職を考える上でも、自分の市場価値を高めるために不可欠な要素となります。

探求的適性を鍛える3つのアプローチ

① 徹底的な現状分析：5W1Hを超えて

課題を分析する際は、「When（いつ）」「Where（どこで）」「Who（誰が）」「What（何を）」「Why（なぜ）」「How（どのように）」といった基本的なフレームワークに加え、さらに「So what?（だから何？）」「Why so?（なぜそうなる？）」と問いを重ねることで、課題の深層に迫ることができます。

「なぜ顧客のエンゲージメントが低下しているのか？」
「このWebサイトの訪問者はなぜすぐに離脱するのか？」

といった問いを深く掘り下げることで、新たな施策のヒントが見つかります。

② データドリブンな思考：事実に基づく意思決定

勘や経験に頼るだけでなく、客観的なデータに基づいて意思決定を行う習慣をつけましょう。
アクセス解析ツールや顧客アンケート、市場調査レポートなど、様々なデータソースを活用することで、より正確に課題を特定し、効果的な解決策を導き出すことができます。Webマーケティングの分野では、Google Analyticsなどのツールを使いこなすことが、探求的適性を高める上で非常に重要です。

③ 多角的な情報収集：一次情報へのこだわり

インターネット上の情報だけでなく、実際に現場に足を運び、関係者から直接話を聞くなど、一次情報に触れる機会を増やすことが重要です。顧客の声、現場の意見、競合他社の動向など、様々な視点から情報を集めることで、より本質的な課題を発見し、キャリアアップにつながる独自の視点を養うことができます。

3. 共感的適性：他者と協調するコミュニケーション力

「共感的適性」とは？

「共感的適性」とは、多様な価値観を持つ人々と円滑にコミュニケーションをとり、互いに協力して物事を進める能力です。DX推進は、特定の部署や個人の力だけで成し遂げられるものではありません。経営層、IT部門、現場の従業員、そして顧客など、様々なステークホルダーの意見を理解し、協調していくことが不可欠です。この能力は、チームを率いるキャリアアップを目指す上で、最も重要なスキルの一つと言えるでしょう。

共感的適性を鍛える3つの実践法

① アクティブリスニング：相手の意図を汲み取る

相手の話をただ聞くだけでなく、相手の言葉の背景にある感情や意図を理解しようと努めることが重要です。
「それは〇〇ということですか？」と確認したり、「～とおっしゃるのは、～という意図でしょうか？」と問いかけることで、相互理解を深めることができます。

② 非言語コミュニケーションへの意識：雰囲気や表情を読み取る

言葉だけでなく、表情やジェスチャー、声のトーンといった非言語情報にも注意を払うことで、相手の本心をより正確に理解することができます。オンライン会議が増えた今だからこそ、画面越しの小さな変化にも気を配る必要があります。

③ 心理的安全性の確保：意見を言いやすい環境づくり

チーム内で誰もが自由に意見を言える「心理的安全性」の高い環境を築くことも、共感的適性の一環です。
「間違っても大丈夫」「くだらないと思われてもいい」という安心感があれば、多様な視点からのアイデアが生まれやすくなり、チーム全体の創造性が向上します。

4. 俊敏的適性：変化に即応する機動力

「俊敏的適性」とは？

「俊敏的適性」とは、変化の兆候をいち早く察知し、迅速かつ柔軟に対応する能力です。
DXのプロジェクトは、計画通りに進むことばかりではありません。市場環境や技術の変化に応じて、計画を修正したり、新たな手法を取り入れたりする柔軟性が求められます。この能力は、Webマーケティングの分野で特に重要であり、トレンドの移り変わりが激しいWeb業界で生き抜くために不可欠なスキルです。

俊敏的適性を鍛える3つのポイント

① スピーディな仮説検証：アジャイル思考の実践

完璧な企画書や計画を立てることに時間をかけるよりも、まずは「仮説」を立て、小さく試して「検証」するサイクルを速く回すことが重要です。
Webマーケティングでは、A/Bテストやヒートマップ分析などを活用して、施策の効果を素早く検証し、改善を繰り返すことで、より成果を出しやすくなります。

② 継続的な学び：リスキリングの習慣化

新しい技術やトレンドに関する情報を常にキャッチアップし、自身のスキルを更新し続けることが、俊敏性を保つ上で不可欠です。
オンライン講座や書籍、セミナーなどを活用して、継続的にリスキリングを行い、常に最新の知識とスキルを身につけましょう。

③ 役割の流動性：柔軟なチーム編成

プロジェクトのフェーズや課題に応じて、チームメンバーの役割や担当を柔軟に変更することで、組織全体の俊敏性を高めることができます。
キャリアアップを目指すなら、特定の役割に固執せず、様々な業務に挑戦することで、自身の適応力を高めることができます。

5. 構想的適性：未来を描くビジョン構築力

「構想的適性」とは？

「構想的適性」とは、漠然とした課題やアイデアを、具体的なビジョンや戦略に落とし込み、関係者に共有する能力です。
DXを推進するためには、単に技術を導入するだけでなく、「何のために、どのような未来を目指すのか」という明確なビジョンが必要です。
このビジョンがなければ、プロジェクトは方向性を見失い、関係者のモチベーションも低下してしまいます。
この能力は、リーダーとしてキャリアアップを目指す上で、最も磨くべきスキルの一つです。

構想的適性を鍛える2つの方法

① 目的思考：Whyから始める習慣

何か新しいことを始めるとき、「How（どのように）」や「What（何を）」から考えるのではなく、「Why（なぜ）」から考える習慣をつけましょう。
なぜ私たちはこのDXプロジェクトに取り組むのか？
なぜこの新しい技術を導入するのか？
その先にある「実現したい未来」は何か？
目的を明確にすることで、プロジェクトの意義が共有され、関係者の共感を得やすくなります。

② ストーリーテリング：ビジョンを魅力的に語る

ビジョンをただ言葉で伝えるだけでなく、ストーリーとして語ることで、人々の心に深く響かせることができます。
「私たちのDXは、顧客の生活をどのように変えるのか？」「このプロジェクトが成功したら、私たちはどんな世界で働いているのか？」といった未来の物語を具体的に描くことで、関係者はビジョンを自分事として捉え、自律的に行動するようになります。

6. 知的適性：論理的に考える問題解決能力

「知的適性」とは？

「知的適性」とは、複雑な情報を論理的に整理し、体系的に思考する能力です。
DX推進においては、多岐にわたる技術やデータを扱い、複雑な問題の根本原因を特定し、最適な解決策を導き出す必要があります。
この能力は、プログラミングやデータ分析といった専門スキルを習得する上での土台となります。
リスキリングやスキルアップを効果的に進めるためにも、この論理的思考力を鍛えることは不可欠です。

知的適性を鍛える3つの習慣

① フレームワーク思考：複雑な問題を構造化する

MECE（Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive：漏れなく、ダブりなく）やロジックツリー、ピラミッドストラクチャーといったフレームワークを活用することで、複雑な問題を整理し、全体像を把握することができます。
例えば、Webマーケティングの課題を分析する際に、顧客の行動を「認知」「興味」「比較検討」「購入」といったフェーズに分解することで、どの段階に問題があるのかを明確に特定できます。

② クリティカルシンキング：情報の真偽を見抜く

インターネット上には様々な情報が溢れていますが、その中には根拠が薄いものや誤った情報も含まれています。
「本当にそうなのか？」「その根拠は何か？」と常に疑いの目を持つことで、情報の真偽を見抜き、正しい判断を下すことができます。
転職やキャリアアップに関する情報を収集する際にも、情報の信頼性を確認する習慣は非常に重要です。

③ アウトプットの習慣：知識を血肉にする

本を読んだり、セミナーに参加したりして得た知識は、アウトプットすることで初めて自分のものになります。
ブログやSNSで学んだことを発信したり、同僚に説明したりすることで、知識の定着度が高まり、自身の思考も整理されます。
特にWebマーケティングの分野では、自らコンテンツを作成して発信することが、スキルアップにつながるだけでなく、自身のポートフォリオにもなります。

DX推進における「不確実性への創造力」を磨くための学習ロードマップ

IPAが示す6つの適性は、それぞれが独立したスキルではなく、互いに深く関連し合っています。
例えば、「創造的適性」で生み出されたアイデアは、「探求的適性」で深掘りされ、「共感的適性」でチームに共有され、「俊敏的適性」で試され、最終的に「構想的適性」でビジョンに昇華され、「知的適性」で論理的に実行されます。

これらの適性をバランス良く高めることが、真のDX人材へのリスキリング、そしてキャリアアップへの道となります。

具体的な学習ロードマップとしては、以下のステップが考えられます。

ステップ1：現状把握と目標設定
まず、IPAが提唱する「6つの適性」の観点から、自己分析を行い、自身の強みと弱みを把握します。その上で、目指すキャリアアップの方向性に合わせて、どの適性を重点的に伸ばすかを明確に目標設定します。

ステップ2：基礎知識の習得
目標に合わせた分野の基礎知識をリスキリングで身につけます。例えば、Webマーケティングの分野であれば、Google AnalyticsやSEOの基礎、SNS広告の仕組みなどを学びます。

ステップ3：実践とアウトプット
インプットした知識を、実際の業務や個人的なプロジェクトでアウトプットする機会を積極的に作ります。小さなプロジェクトでも良いので、まずは「やってみる」ことが重要です。

ステップ4：フィードバックと改善
アウトプットした結果に対して、上司や同僚、メンターからフィードバックをもらい、改善点を洗い出します。このサイクルを繰り返すことで、スキルアップが加速します。

ステップ5：多角的な挑戦
異なる分野のプロジェクトに参加したり、他部署の業務を経験したりすることで、幅広い視点を養い、6つの適性すべてをバランス良く鍛えます。