経済産業省が推進する「リスキリング」の全体像と個人の活用法

2025.07.13

「リスキリング」という言葉を、ニュースやビジネスシーンで耳にする機会が急増しています。もはや単なるトレンドワードではなく、経済産業省が中心となって国が推進する、日本の未来を左右する重要な国家戦略となっています。

しかし、「国が推進しているのは知っているけど、具体的に何をやっていて、自分にどう関係あるの？」と感じている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、なぜ国がリスキリングを重要視するのかという背景から、経済産業省や厚生労働省が提供する具体的な支援制度の全体像、そして私たち個人がその制度を賢く活用してキャリアアップや転職に繋げるための完全ガイドまで、徹底的に解説します。

特に、成長分野であるWebマーケティングなどのデジタルスキルを身につけたいと考えている方にとって、公的な支援を最大限に活用し、市場価値の高い人材へと飛躍するための必読情報が満載です。

なぜ国が「リスキリング」を推進するのか？経済産業省の狙い

まず理解すべきは、「なぜ今、国を挙げてリスキリングなのか？」という点です。経済産業省が示す方針の裏には、日本が直面する大きな課題と、それに対する明確な国家戦略が存在します。

DXの遅れと「2025年の崖」への強い危機感

経済産業省がリスキリングを急務とする最大の理由の一つが、日本のデジタル化の遅れ、すなわちDX（デジタルトランスフォーメーション）の遅延です。多くの企業で老朽化した既存システム（レガシーシステム）が使い続けられており、これが足かせとなって新しいビジネスモデルへの変革を阻んでいます。

このままでは、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があると警告されており、これを「2025年の崖」と呼びます。この崖を乗り越えるためには、社会全体でデジタル技術を使いこなせる人材を早急に育成する必要があるのです。

リスキリングは、この危機的状況を打開し、日本全体の生産性と国際競争力を高めるための最重要課題と位置づけられています。AIやデータサイエンス、そしてビジネスの根幹を支えるWebマーケティングといったデジタル分野のスキルアップが、国全体の成長に不可欠なのです。

「人的資本経営」の実現に向けた国家戦略

現代の経営において、従業員をコストではなく「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで企業価値の向上を目指す「人的資本経営」が世界の潮流となっています。経済産業省もこの考え方を強く推進しており、リスキミングはその中核をなす施策です。

国としては、企業が従業員の教育に投資し、従業員は新たなスキルを身につけて生産性を向上させ、その結果として企業も個人も豊かになる、という好循環を生み出すことを目指しています。個人のキャリアアップ支援は、単なる個人への恩恵に留まらず、日本経済全体の成長エンジンとして期待されているのです。

企業主導から「個人主導の学び」へのシフト支援

終身雇用が当たり前だった時代は、キャリア形成やスキル開発の多くを所属企業に委ねることができました。しかし、働き方が多様化し、転職が一般化した現代では、企業に依存するキャリア形成には限界があります。

そこで経済産業省は、個人が自らの意思でキャリアを選択し、必要な学び直しを能動的に行える環境を整備することに力を入れています。企業主導の画一的な研修だけでなく、個人が「自分のキャリアにはこのスキルが必要だ」と考えた時に、社会全体でその学びをサポートする。この「個人主導の学び」へのシフトこそが、変化の激しい時代を生き抜く人材を育むと考えているのです。

経済産業省・厚生労働省が提供するリスキリング支援策の全体像

国のリスキリング支援は、主に「経済産業省」と「厚生労働省」が連携して進めています。それぞれの役割と、提供されている主要な制度を理解することで、自分がどの支援を活用できるかが見えてきます。

2つの省庁の役割分担：戦略のMETI、給付のMHLW

リスキリング支援における両省の役割は、以下のように整理できます。

経済産業省（METI）：
- 役割：日本の産業競争力強化の観点から、どのようなスキルが今後必要になるかを定義し、育成戦略を立てる「司令塔」。
- 具体策：デジタル人材育成のためのポータルサイト運営、質の高い講座の認定、キャリア相談支援事業の実施など。
厚生労働省（MHLW）：
- 役割：雇用の安定と促進の観点から、個人が学び直しを行う際の金銭的な負担を軽減する「実行部隊」。
- 具体策：雇用保険制度を活用した「教育訓練給付制度」の運営。

つまり、経済産業省が「何を学ぶべきか」の指針を示し、厚生労働省が「どう学ぶか」の経済的支援を行うという連携体制になっています。

METIの主要事業：「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」

経済産業省が推進する代表的な事業が、「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」です。これは、単にスキルを学ぶだけでなく、その先のキャリアアップや転職までを一気通貫で支援することを目的としています。

支援内容：
1. キャリア相談：専門のキャリアコンサルタントが、個人の経験や希望をヒアリングし、最適なキャリアプランと必要なスキルを一緒に考える。
2. リスキリング講座の提供：キャリアプランに合った講座を提示し、受講を促す。
3. 転職支援：スキル習得後、提携する多くの企業への転職をサポートする。

この事業は、受講料の一部を補助するだけでなく、学びの「入り口（キャリア相談）」から「出口（転職支援）」までをトータルでサポートしてくれるのが大きな特徴です。

ポータルサイト「マナビDX（デラックス）」で講座を探す

「どんなデジタルスキルを学べばいいかわからない」「質の高い講座が知りたい」という方のために、経済産業省が設けたポータルサイトが「マナビDX（デラックス）」です。

このサイトでは、初級から上級まで、あらゆるレベルのデジタルスキル講座が網羅的に紹介されています。特に注目すべきは、次に紹介する「Reスキル講座」の認定を受けた、質の高い講座を簡単に検索できる点です。Webマーケティングやデータサイエンスなど、自分の興味や目的に合わせて講座を探せる、リスキリングの第一歩として非常に便利なツールです。

第四次産業革命スキル習得講座認定制度（Reスキル講座）とは？

「Reスキル講座」とは、経済産業大臣が認定した、IT・デジタル分野の高度な専門性を習得するための講座のことです。AI、IoT、クラウド、高度なWebマーケティング（データ分析など）といった、今後の社会で特に需要が高まる分野の講座が対象となります。この認定を受けている講座は、質の高さが担保されているだけでなく、後述する厚生労働省の「専門実践教育訓練給付金」の対象となり、受講料の最大70%という手厚い支援を受けられる可能性があります。

【個人向け完全ガイド】リスキリング補助金・支援制度の賢い活用法

ここからは、私たち個人が直接利用できる最も重要な制度「教育訓練給付制度」について、具体的な活用法を解説します。これは厚生労働省が管轄する、雇用保険の被保険者（または被保険者であった方）が利用できる制度です。

最も重要な制度「教育訓練給付制度」を徹底解説

この制度は、働く人の主体的なスキルアップを支援し、雇用の安定と再就職の促進を図るもので、目的やレベルに応じて3つの種類があります。

専門実践教育訓練給付金：本気のキャリアチェンジに

最も手厚い支援が受けられるのが、この専門実践教育訓練です。「Reスキル講座」など、中長期的なキャリア形成に資する専門的・実践的な講座が対象となります。

給付額：受講費用の50%（年間上限40万円）。さらに、受講修了後に資格取得などをし、1年以内に雇用された場合は20%が追加支給され、合計で最大70%（年間上限56万円）が給付されます。
対象者：支給要件期間が通算2年以上（初めて利用する場合は2年、2回目以降は3年）など。
活用シーン：未経験からWebマーケティングのプロフェッショナルを目指す、データサイエンティストに転職するなど、本格的なリスキリングに最適です。